『楽しい家族』

自分の小学生時代の思い出なんて、 

もう前世の出来事かってくらい 

かすみがかかってたけど 

わが子が小学校に入ったら 

急に記憶が引き出されるようになりまして。 

 

校舎や黒板、 

運動会、音楽会みたいな行事、 

給食のメニューや白衣、 

上履きや図書室の本。 

鉛筆削りや分度器。 

小さなきっかけでぽつりぽつりと。 

 

こういう目に見えるアイテムが 

記憶の扉を開けてくれるんだけど 

そこから引き出されるのは 

考えてたことや感じたこと、 

匂いや温度だったりするのが不思議です。 

 

女子ですからね。 

結構大人びたことを考えてたな、とか 

案外ちゃんと感じ取っていたじゃない、とか、 

まだまだ甘えん坊のうちのブラザーズも 

実はいろいろ考えてるのかなと淡く期待したり。 

 

子育てって、 

こうしてもう1回人生を追体験するみたいなところがあります。 

すごい得した感。 

 

 

『楽しい家族』ノーソフ(偕成社文庫) 

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これは4、5年生くらいのころ、繰り返し読んだ本です。 

帰省したときに本棚で見つけて、 

息子たちに読ませようと持ち帰ってきたんですが 

色褪せた紙っていいですよね、特有の匂いがあって。 

時間に匂いがあったらこんなかなって思います。 

 

ノーソフは、20世紀ロシア(当時はソ連ですね)の作家です。 

良くも悪くも子どもを子どもらしく描いた作品で、 

大人も子どもも読者にした人。 

 

好奇心旺盛な主人公の男の子が、 

卵を孵してひよこを育てていくお話です。 

楽しい家族というのは、かえったひよこたちのこと。 

 

あれこれ工夫して孵卵器を手づくりしたり 

温度の管理に苦戦したりするのを 

自分も一緒になって大切な命を守っているような思いで 

追いかけていた気がします。 

 

これはある日の自分かもしれないと思わせる 

ストーリーもさることながら、 

必要な道具とか細かい温度管理の方法とか、 

子どもの知識欲も満たしてくれるところが 

引き込まれた理由だったのかなと。 

 

生き物を育てるって 

ものすごく責任の重いことだけど 

子どもはみんな、やりたがりますよね。 

ひょいと簡単に。 

うちもバッタやカマキリ、クワガタにはじまり、 

サワガニとかメダカを飼ったこともあるな。 

 

この経験は、彼らの心に何かを残したんだろうか。 

 

本日、12年目の3.11。 

おとんの地元、東京下町で 

マンション暮らしをしていた当時のわが家。 

長男は生後半年でした。 

お昼寝中だった長男は、揺れで目を覚ましました。 

キッチンにいた私は断続的に続く余震の中、 

這って長男のいる寝室に向かいました。 

だんだん暮れていく金曜の午後。 

テレビから流れる現実離れした映像を 

乳飲み子とふたりで呆然と見つめていました。 

 

忘れられない。 

 

近所の札所で追悼式が行われていたので 

夕方、息子たちを連れてお詣りに。 

 

命は重いとか大切だとか 

口で言うのはたやすいけど、 

実感は伴いにくいし、教えられてわかるものでもない。 

ただ。 

命は失われてしまうものであること。 

それだけはいつも心に留めておきたいと思います。